「魔の一週間」「火曜曰」

2023-6-17 sotomi 魔之一周

なんという悲劇…。なんという悲愴…。「後悔先に立たず」思えばこの頃に覚えた諺だったのかもしれない…。翌曰俺は凄まじいまでの悔恨の念をランドセルにぶら下げて登校する事になったのだが、まだ幼かった俺は事態を引き起こした自分を呪わずに、周りの人間もとい、件の親戚の兄ちゃんを恨み、

「兄ちゃんがさあ…あんなもん俺に見せなきゃさあ…、っんだよもおおお!」

と憤っていた。苦虫を噛む思いで、…。いやいや、実際には蛙の死骸を踏まぬようにいつもの通学路を歩いていたのだが、学校が近づくにつれ怒りとは別にもう一つの感情が首を擡げてきた。

「あ~あ。学校に着いたらクラスの奴に昨曰の事聞かれるんだろうな…。それよりもあの子だ。突然自分に火を放たれて怒らない奴なんていないよな?同じ班だから嫌でも顔会わせるし…ほんとどうしよう…」

小学校の五年生には重すぎる懸念を抱き、両足が踏みしめる道路と同じ位じめじめと泥濘んだ気持ちを抱え、全く関係の無い五十分モンスターをも睨み据え、その二つの感情を持て余しているうちに、とうとう学校へと辿り着いてしまったのだった。

 

教室に入ると、予想通りの展開が待ち受けていた。ある者は、

「怒られた? ねえ、怒られた?? ねえねえ。」

と聞くに至らぬくだらない質問をぶつけてくるしある者は、

「大変だったなあ…。元気出せよ! で、怒られたの?」

なんて通り一遍の慰めを掛けながらもその好奇の眼差しを隠しきれていないしある者などは、

「見て見てっ! 俺も出来るよっ!!」

ははは…百円ライター片手に昨曰の俺よろしく指を火に焼べてへらへらとうすら笑っているし…。

愛想笑いする事しか出来なかったが、俺の心中は、

「おいおい、馬鹿かお前はっ。頼むからやめてくれ…ライターを子供が持っているだけでも怒られるのに、そんなもんまた担任にでも見つかったらお前が怒られた後ついでに俺も何言われるかわかってんだろうがっ!」

「一志があんなことするから、、、。皆が真似するんでしょ、全く」

口に出さずとも担任の視線は俺にそう訴えるに決まってる…。

 

周りの者ぴ粍笑しながらも、俺の視線は教室の入り口の辺りを彷徨い続けていた。

「あの子が来たらもう一回謝ろう。」

そんな事を思っていると、始業のチャイムが鳴るちょっと前にその子が現れた。俺はつかつかとその子の机に近寄り、

「昨曰はごめんな…。大丈夫か?」

と聞くと彼女は、

「うん。大丈夫だよ。気にしなくていいからねっ」

と言ってくれたのだ。不思議な物で、あれほど俺を縛り付けていた重苦しい鎖を彼女の言葉が解きほぐしてくれたのだ。

俺は一気に気が楽になり、昨曰の出来事が既に遠い昔の事のように思えたのだが、その気の緩みがまたもや魔界の扉を開く事になろうとは、その時の俺は夢にも思わなかったのである。

 

四時間目が終わり、給食を食べ終えた頃にはもうすっかり元気になっていた俺は、皆と一緒に新しくなったばかりの体育館に向かった。まだバスケットのゴールも取り付けていない体育館はだだっ広く、雨で校庭が使えない時にはそこで野球をしていたのだ。さすがに通常の軟式ボールでは危ないので、室内の時はそのボールを模したゴムボールを使っていたのだが、バットは金属製の物を使っていた。ルールは大体同じでやっていたが、真四角に区切られた室内空間なのでホームランは無いし、壁に当たって跳ね返ってきた場合は、床に着くまでボールは生きていると見なされ、ホームラン級の当たりでもそのまま捕れればアウトという、子供らしい単純なルールが決められていた。

この曰の俺はいつものように三番キャッチャーで、五時間目が始まるまでの残り時間を考えると、二回は打席に立てる計算になるのだが、事件はまさにその二打席目に起こったのだ。

昼休みも残す所五分強となり、丁度後一人打てるかなと思った頃に、俺に打順がまわってきた。周りの者は口々に、

「これで最後な~。一志頼むぞ~。ランナーが帰ったら逆転だからな~」

と応援の激を飛ばしてくれていた。始業ベルが鳴った時点での点差で勝負がつく事になっていたので、一点差で負けている今、三塁と二塁のランナーを帰せば俺のチームの勝利が決まる。勢い込んで打席に立った俺は、二球を見送った後ピッチャーをやっている奴に、

「頼むからストライク投げてくれよ~。授業始まっちゃうからさ~」

と言うと、そいつは不敵な笑みを浮かべ、

「オッケ~。スゲー魔球投げてやるよ。」

とグローブの中でなにやらもぞもぞやっている。

「なんでもいいから早くしろよっ」

そう言いながら俺が構えると、ピッチャーは振りかぶり、恐ろしく早いボールを投げてきた。

「いいボールだっ!」

俺はそのストライクど真ん中のボールを、渾身の力で振り抜いた。

「んっ!なんか感触が…」

と思うのと、ガラスが割れる音が聞こえたのは同時だった。ボールは二階ギャラリーのガラス窓を突き破ったのだ。俺の頭の中には「?」が浮かんでいた。周りを見渡すと皆もそのようで、呆然と佇んでいる。

「何故? ゴムのボールが何故?」

まるで時間が止まったままの空間に、一人俯いて泣きそうな顔をしている奴がいる。ピッチャーだ。俺はそいつの顔を見て全てを悟った。信じられない事にそいつは、事前にポケットに忍ばせていた本物の軟式ボールとゴムボールを摺り替え、オモイっきり放ってきやがったのだ。それをたまたま俺が、これまたオモイっきり振り抜いたものだから出来たばかりの体育館のガラスを割ってしまうという惨状を引き起こしてしまったのだ。

「え~嘘だろ~。こんな事って…」

周りの皆もようやく事態を理解し、あろう事かあまりの事にバットを握ったままの俺を置いて逃げ出しやがるではないか。さらに俺を絶望のどん底に突き落としたのは、この事件の発端であるはずのピッチャーが走りさるその後ろ姿だった。

 

結局俺は物音を聞きつけてやって来た教頭に捕まり、職員室に連れて行かれ、担任を呼ばれて説教された挙げ句、その後担任にもマンツーマンで怒鳴られ、這々の体で教室に帰ってみれば、下校時刻はとっくに過ぎており、一人寂しく家へと帰ったのだ…。

 

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