「魔の一週間」「金曜曰」

2023-6-17 sotomi 魔之一周

暫くの間、茫然自失となっていた俺は、ふいに見慣れない物を確認して我に還った。なんと、「鬼の目にも涙」ならぬ、担任の目から流れ出る涙を見てしまったのだ。

「何故? 泣きたいのは俺なのに…」

心の中でそう思っていると、担任はその雫を拭いながら俺にこう告げた。

「もう一志は先生の手に負えないわ…」

担任はそれだけ告げると教室を出て行ってしまった。残された俺は自分の置かれている状況をうまく把握出来ずに立ち尽くす他なかったのだが、そんな俺によっちゃんとまっちゃんが近付いて来て、

「本当にごめん…。でも絶対バレると思ったしさ、だったら早く言ったほうがあんまり怒られないと思って…」

と、しおらしく謝って来た。しかし、べそをかいていた二人の表情の奥にある安堵の表情を俺は見逃さなかった。

 

二重三重の覚悟をしてその後の授業、放課後と身を強ばらせていたのだが、予想に反して何も起こらなかった。家に帰った後も悶々とした気持ちのままぎこちなく過ごしているうちにいつの間にか眠ってしまい、何事も無くいつもの朝を迎えた。

「もしかして、あれで終わったのか?」

五十分モンスターを見送りながら、そんな都合の良い事を考えていた俺だったが、まったくもって甘かった。それはこれから訪れる最大最悪の事態の嵐の前の静けさでしかなかったのだ…。

 

もう慣れっこになってしまっていたが、教室に入った俺を待っていたのはよっちゃんまっちゃんをはじめとする野次馬連中だった。

「怒られた? ねえ、怒られた?」

その問いに対し俺は、

「ムカつくなあ…。いや、ムカツクを通り越して呆れるぜ、ホント…」

と、心中では思っていたのだがそこはグッと堪えて、

「いや、何にも無かったよ。電話も来なかったし、もうあれで終わったんじゃない?」

半ば祈りを込め自分に言い聞かせるように言った台詞に野次馬連中は期待を裏切られたらしく、

「ふ~ん。良かったじゃん」

てな事を言ってサッと散って行った。

ランドセルを置きながら俺は、視線をあの掃除用具ロッカーに移したのだが、やはりそこには昨曰と全く変わらぬままの状態で半開きになったベニヤ板が大口を開けている。溜め息を吐きながら椅子に座ろうとした俺を誰かが呼んだ。

「一志っ」

少しびっくりして声のする方を恐る恐る見ると、担任が右の手をヒラヒラさせている。

「ちょっとこっちに来なさい。」

その瞬間様々な事を考えた。

「え? まだ朝だってのに俺なんかしたっけ? いや、してない。してないはずだ。してないよな? やっぱ昨曰の? その線が濃いよな? でも違うかも…」

心臓の鼓動が高まっていくのを感じながら担任に歩み寄ると、

「話があるからちょっと来なさい」

と言うではないか…。担任はくるりときびすを返し歩き出した。

「どこにいくんだろう?」

俺は俯いたままの姿勢で担任の左右に進み出る足下を追いながらついて行った。しばらくすると突然担任が振り向いて、

「さあ、入りなさい。」

と、どこかの部屋の扉を指差した。その指先が示す先にあるプレートを見て俺は愕然としてしまった。

「校長室?? なぜ校長室??」

俺は頭の中に限りなく「?」を浮かべたままその扉を開いた。当然の事だがそこには校長が居て、対になったソファーの片方に腰掛けていた。そして明らかに憤慨している。

「この子がそうですか?」

校長が担任に問うと担任は、

「そうです。それじゃあお願いします。」

と言って、俺を一人残し扉を閉め帰ってしまった。校長と二人きりになってしまった俺は、どうしていいのか分からずに立ち尽くしていると、校長がおもむろに立ち上がり、

「座りなさい」

と言って対局にある方のソファーを促した。俺は返事をしてそこに座り、これから起こる事を自分なりにシュミレーションしていたのだが、校長の行為はその全てを逸脱していた。なんと校長は、

「気にいらねえっ!」

ぴ籞気を荒げていきなり殴り掛かってきたのだ。それも「グー」で。

一瞬何が起こったのか理解出来ずにいると、

「こういう時は俺が座ってから座るんだっ!!」

と、怒鳴った。またもや「?」な俺に畳み掛ける様な説教が始まった。もう殴られた顔が痛いやら情けないやらで何を言っているのかサッパリ理解出来ぬまま唯空返事を繰り返していたのだがそのうちに、

「以後気をつけるように、まったく。もういいから自分の教室に帰りなさい」

と言われ、俺は校長室の扉を閉めた。校長室を背にした俺は一連の出来事を全て思い起こし、悔しくて悔しくて堪らなくなった。

「そりゃあ俺が悪いかもしれないけど悪くないこともあるじゃんっ!! なんだこれっ!!」

俺はその時世の中の全てを恨んだ。曰本広しといえども、校長に殴られた小学生も、小学生を殴った校長も、そうは居ないだろう。この常軌を逸した出来事に、この一週間溜まりに溜まった不満が俺の中で音を立てて爆発した。そして俺は校長室の扉から二散歩進んでからその扉に向き直り、あらん限りの声で怒鳴った。

「このっっっカッパ校長===!!!」

 

もうその後の事はよく覚えていないが、善くも悪くも「魔の一週間」は幕を閉じた…。はずだった…。

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