一志短篇连载小说 - 第三部「鬼談」第一回「守銭奴」
第一回「守銭奴」
「金が欲しいっ! 金が欲しいっ! もっと欲しいもっともっと欲しい~!!」
ソファーの上に土足で立ち、歌詞が羅列するテレビ画面を睨むように、ブルーハーツの名曲を替え歌にして唄っているAの渾名は「守銭奴」だ。無論、本人はそんな渾名で自分が呼ばれているとは露程も思っていないだろう。
Aは、終業の時間ぴったりに椅子から立ち上がり、同様にパソコンの電源を切ろうとしていた俺のデスクまで歩み寄って来て、
「おい、ちょっと一杯引っ掛けていかないか? 暇だろ?」
と俺を誘った。いつもの事ながらあまり気乗りはしなかったが、昼食を抜いたせいですこぶる腹が減っていた俺は、断る理由を考えるのも億劫で、
「ああ」
と返事をしてしまった。
場末の居酒屋のカウンターに腰掛けるが早いか、Aはいつもの愚痴をこぼし始めた。
「あのハゲ課長、俺の事眼の敵にしやがって。今日だってコーヒー買って来いって言ってきっかり一本分の銭しか渡さないんだぜ? まったく、ケチな奴だよ」
そう言って生ビールをグビグビと呑むAの話しを聞き流しつつ、俺はお通しの煮物に箸を伸ばした。
Aはとにかく不満の多い男で、特に呑んでいる時などは他人に対する文句しか言わない。俺は今更ながらAとこの場に居る事に悔恨の念を抱いていたが時既に遅しで、みるみる赤ら顔になっていくAは、それに比例して益々饒舌になっていく。そうこうするうちにAは、
「あ~、ムシャクシャする。よしっ!! カラオケ行こうぜっ!! あっ、勿論割り勘だぞ!?」
と、頼んだばかりのビールのジョッキを手に持った俺には目もくれず、勝手に店員を呼びつけて清算してしまった。勿論、割り勘である。
そんな経緯があり、俺たち二人は駅前のカラオケボックスに居る訳だが歌っているのは専らAのほうで、俺はひたすら時間が経過して行く事を祈るばかりだった。
一人で何曲も続けて歌ったAは、さすがに疲れたのかネクタイを緩めながらソファーに腰掛けた。そしておもむろに俺に顔を向け、
「おいっ!! 俺は絶対金持ちになるぞっ!! そんでもってあの課長をあごで使ってやるんだ。さっきのババアも言ってたろ? 俺は金持ちになる運命なんだっ!!」
と嘯くと再び立ち上がり、いつの間に入力していたのか次の曲へと挑んで行った。
「そういえば…。なんか不思議な婆さんだったなあ…」
俺は一人真剣に歌うAを尻目に、先ほど声を掛けられた不思議な老婆の事を思い出していた。
居酒屋を出た俺たちは、トボトボと駅前までの道を歩いていたのだが、トオセンボをするようにその婆さんは唐突に現れ、Aの顔を覗き込むように見つめると、
「あんたの願いは…もうすぐ叶うよ…」
と訳の分からない言葉を言い残し立ち去ってしまった。
「あれはなんだったんだろう…?」
酔っていたせいもあってあまり気にも留めずにいたのだが、考えてみればおかしな話である…。テーブルの上のウーロン茶をぼんやりと見つめながらそんな事を考えていると、壁掛けの電話が鳴った。どうやら終了の時間らしい。
やれやれという思いで店を出た俺とAは、駅までの短い道程を歩き出した。すると、
「あっ!!」
Aが突然声をあげ走り出した。びっくりした俺はAが向かう方向に目をやると、道ばたになにやら落ちているのが見えた。財布である。それを見つけたAは嬉々として駆け出したのだ。
俺が追いついた時にはすでに、Aは人目も憚らず財布の中身を確かめていた。
「それ、どうすんだ?」
返ってくる答は何となく予想できたが、おそるおそるそう尋ねる俺に向かってAは、
「すげ~よ。30万近く入ってるぜっ!! ラッキーッ!!」
と一人喜んでいる。どうやら交番に届けるつもりは毛頭無く、ネコババするらしい。俺は思わず溜め息を漏らしたのだが、Aはまだ興奮冷めやらぬ様子で、
「いや~。あの婆さんの占い当たったじゃん!! やっぱり俺は金持ちになれるんだっ!! やっぱそうだ。そうなんだ。」
なんて事を繰り返し言っている。俺はもう付き合ってられないとAを置き去りにして歩き出した。すると、
「ドシャッ!!」
という物凄い音が後ろから聞こえた。振り返ってみると先ほどまで確かに居たはずのAが消えている。その代わり、Aが居た場所にはなにやらひしゃげた鉄の塊のような物が横たわっているではないか。その下から粘着質の液体が流れ出ている…。どうやら、何かの弾みでビルの上に掲げられていた店の看板がAを直撃したらしい…。暫し呆然としていた俺だったが、事の重大さに気付くとその看板に駆け寄り、すぐ近くに居た何人かの通行人に手伝ってもらってその看板をどかした。
Aの頭は、まるで腐ったトマトのように赤黒くに染まり、見る影も無く潰れていた。
あまりの事に咄嗟の行動が思いつかない俺は、額から流れ出る汗を拭うと、どかした看板に目をやった。そこには、
「SLOT GOLD」
の文字があった。それを見た俺は、得体の知れぬ悪寒を感じながら、動かなくなったAを呆然と見下ろす事しか出来なかった…。
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